こんにちは、一級建築士のMac建築デザイン研究所・安田です。
不動産経営で長期的に安定した利益を得るためには、設計段階から他と一線を画すマンションをつくることが重要です。本日は、私の30年近い経験と数々の実験を通してたどり着いた「長期的に利益が出るマンション設計の答え」を、専門家としてわかりやすくご紹介します。
結論:利益が出るマンションに共通する2つの条件
結論から言いますと、つぎの2点を満足することが必須です。
- 新築時しかできない差別化を施すこと
- 入居者の”リアルな困りごと”を解決すること
差別化は“トッピング”では意味がない

世間でよく言われるマンションの差別化策――たとえば「ネット無料」「セキュリティ強化」「スマート家電」など――は、すべて後付け可能なトッピングに過ぎません。つまり、誰でもすぐに真似できてしまうのです。
こうした後付け設備で差別化しても、数年も経てば他の物件に埋もれ、結局また新しい設備投資が必要になります。これは、まさにイタチごっこ。
さらに厄介なのは、空室が出るたびに賃貸仲介業者から「これを付ければ人気が出ますよ」と、毎回違う設備を勧められること。真に受けてすべてに対応していては、コストばかりが増え、利益はどんどん圧迫されていきます。
入居者アンケートで「あると嬉しい」とされる機能も、実際の入居決定に直結するわけではありません。
だからこそ必要なのは、後付けできない構造的な差別化なのです。
本当に必要なのは“薬”のような設計

私は長年「外断熱」という建物性能で差別化を図ってきました。これは断熱効果に優れ、快適性を高める技術ですが、あくまでも「サプリメント」のようなものです。
つまり、「現状に大きな不満はないけど、もう少し快適に過ごしたい」という“プラスアルファの希望”に応える技術。言い換えれば、「なくても生活はできる」レベルの提案でした。
それに対して、「今、困っている人」を救うのが薬です。
たとえば高熱で苦しんでいるとき、解熱剤を飲めば確実に熱が下がりますよね。薬はほんとうにありがたい。
では、賃貸マンションにおける薬はなにか? 私が10年かけてたどり着いた答え、それが防音・防振です。
お隣からの騒音、上の階で子供が走り回る振動に悩まされ、仕事でミスを重ね、ついには精神疾患を引き起こす人もいます。
家は疲れをいやし、活力を養う場所なのに、帰る時間になると暗い気持ちになる。こんなに不幸なことはありません。
新しい生活を夢見て選んだお部屋。ニトリでコーディネートした家具やカーテン、大切な人が贈ってくれた観葉植物も、すべてが台無しになるほどの悪夢。しかもそれが現実。
引っ越しを考えても、礼金・敷金・引っ越し費用で100万円近くかかる。そのお金がなければ我慢するしかない。そして、引っ越しても静かに暮らせる保証はどこにもない。
これはタワマンでも、分譲でも、億ションでも変わりません。日本のマンションにおける“音と振動のストレス”は、まさに構造的な問題なのです。
だからこそ、防音・防振は「即効性のある処方薬」。音のストレスで眠れない、集中できない、心が休まらない――そんな日常の苦痛を根本から取り除く設計が求められているのです。
10年間の実験とノウハウの蓄積

私はこの10年間、さまざまなかたちで防音・防振を試みる機会に恵まれてきました。
たとえば、
- グランドピアノを2台設置したピアノ教室(沼津)
- ロックバンドの練習場(名古屋)
- ピアノが趣味のご令嬢の個人室(仙台)
- 公立高校の音楽教員宅の室内練習室(大阪)
- 私立高校の2階建て体育館と吹奏楽部練習場(京都)
- スタンウェイ試弾室(長岡京市)
- 約60席のミニホール など
木造・鉄骨造・コンクリート造など構造形式も多様で、実験的な取り組みを数多く行い、豊富なノウハウを蓄積してきました。中には「責任は問わないから思いっきりやってみてくれ!」という心強いお声をいただいたこともあり、大変ありがたい経験となりました。
これらの実績を礎に、ついに完成したのが2023年竣工のMusik北参道です。
Musik北参道:防音・防振の集大成

2023年に完成した「Musik北参道」は、私の10年にわたる防音・防振研究の集大成とも言えるプロジェクトです。場所は、アニメ『けいおん』の聖地としても知られる「ゲートウェイスタジオ代々木」の跡地。
この物件の設計にあたっては、なんと3回にわたって旧スタジオを利用し、防音・防振の実験を行うことができました。貴重な実験から得られた知見の一部をご紹介します。
- 音や振動が一度でも建築本体に伝わると、取り返しがつかない
- シンバルやスネアドラムなどの高音は目立つが、実はパワーは小さい
- バスドラムの低音は非常に強力で、完全遮断しようとすると空間が狭くなりすぎる
これらをふまえて、ロックバンド(エレキギター、エレキベース、生ドラム)の演奏に対応すべく挑戦を重ねましたが、さすがに生ドラムは断念。しかしそれ以外の楽器、たとえばグランドピアノであれば、全力で演奏しても隣室にはまったく音が漏れないレベルを実現できました。
Musik北参道が他の防音マンションと決定的に異なるのは、単に音を遮るだけではなく、音響空間としての質も極めて高いことです。音響設計は、日本屈指の音響専門家・村田研治先生による監修のもと行われました。
日本のマンションの現実と、Musik北参道の実力

日本のマンションにおける防音性能は、建築基準法上「D-40db」とされていますが、実際に期待できる性能はD-30db程度です。なぜなら、間仕切り壁以外からの音漏れが野放しになっているからです。
D-30dbの現実とはどういうものかというと──お隣の家で弾くピアノの音がこちらにもよく聞こえ、テレビの音や会話も筒抜け。ひどい場合は、隣家の家族の話の内容まで分かってしまうほど。しかも、防音に関しては検査制度がなく、現場では実質“無法地帯”なのが現状です。
では、Musik北参道はどうか?
答えはD-70db。表にも載っていない“場外ホームラン級”の性能です。

騒音と足音とはべつもの!

ここまで「音」つまり防音についてお話してきましたが、次に重要なのが「振動」、つまり足音の問題です。
振動には大きく分けて2種類あります:
- LL(軽量床衝撃音):椅子の移動音や物の落下音など
- LH(重量床衝撃音):子供が走り回ったり飛びはねたりする足音など
この2つは本質的に異なりますが、混同されがちです。
LLは市販の防音マット(スポンジ板)である程度カバーできます。 しかし問題はLH。こればかりは、後付けで防ぐ方法がないのです。
たとえば部屋一面に厚み20cm以上のスプリングマットを敷き詰めれば多少効果はあるかもしれませんが、それでは日常生活に支障が出てしまいます。
では、Musik北参道の防振性能は?
答えはLL-30/LH-35。これもまた、想定外の“場外ホームラン”でした。

日本のマンションの現状(ここだけの話)

もっとも解決が難しいとされるのが、「子供が走り回ったり飛びはねたりする振動(LH)」を防ぐ方法です。
なぜ私が、こんな面倒なことをわざわざ解説するかというと、 このノウハウが、あなたのマンションを将来にわたって満室に保ち、家賃を下げずに済む(むしろ値上げできる)最大の鍵になるからです。
実際、Musik北参道では新築から2年後に1万円の家賃アップを実現しました。
さて、以下のような状況を想像してみてください。

3階建てマンションの2階に住む元気な子どもが、室内を走り回り飛び跳ねています。
すると、実はここだけの話──コンクリートの床や壁がわずかに“しなる”=波打つのです。
もちろん、発展途上国のダンスホールのように床が落ちるような危険はありません。
しかし、この「わずかな波打ち」が建物全体に振動を伝え、上下階や隣室にも影響してしまうのです。
この“構造的に伝わる振動”をどう断ち切るか。ここが最大の難所であり、解決できれば他にはない価値を生み出す武器になります。
マトリョーシカ防音・防振構造
ここで登場するのが、私たちが導入している「マトリョーシカ構造」です。

3階建てマンションの断面図を想像してください。2階の中央の部屋で、子どもが元気に走り回っています。
この部屋を取り囲むように、明るいブルーで描かれたのがマンションの構造体であるコンクリートの床と壁です。そして、その中にスキマを空けて独立して設置されているのが、緑色の枠で示された「マトリョーシカ構造」の天井と壁です。
この緑の構造体は、建物の主構造(コンクリート)とは完全に独立しています。では、このマトリョーシカが“宙に浮いている”のかというと、そうではありません。

上の図(拡大図)をご覧ください。
緑のマトリョーシカは、明るい山吹色のクッションのような素材の上に設置されています。これがグラスウールです。
「えっ?グラスウールって、あのフカフカの断熱材? すぐにペチャンコになるんじゃ?」と思われるかもしれません。
実はグラスウールにも密度の違いがあり、適度に硬く、荷重に耐えられるタイプを選んで使用します。
具体的には、マンションの構造体であるコンクリート床の上にグラスウールを敷き、その上にコンクリートの中間スラブを設け、そのうえに緑のマトリョーシカ(居住空間)を構築する。
この「グラスウール+中間スラブ」が振動のショックを吸収し、周囲に伝わることを防ぎます。
これなら、子どもが元気に走り回っても、隣や上下階の住人に一切迷惑がかからないのです。
地震に強くするための軽量化

マトリョーシカ構造は「箱の中に箱をつくる構造」で、防音・防振の面では非常に優れた設計です。しかしその反面、構造全体の重量が増し、放っておけば地震に弱くなるという側面もあります。
例えるなら、体重の重いお相撲さんが膝を痛めやすいのと同じ。しっかりとした対策を講じなければ、建物に過剰な負荷がかかってしまうのです。
では、どうするか?――答えは「構造のシェイプアップ」です。
私は、構造体として必要なコンクリート床はしっかりと造りつつ、外壁や間仕切り壁は軽量素材に変更。これにより、マトリョーシカ構造の性能を活かしながら、耐震性の高い建物を実現しました。
もちろん、Musik北参道も同様の設計です。10階建てというスケールにも関わらず、地震対策は万全。音にも振動にも、そして災害にも強いマンション。それが、私たちが目指す「長く選ばれる建物」の条件なのです。
まとめ:長期的に利益が出るマンション設計とは
長期的に利益が出る理由
Musik北参道は、完成してから2年後に家賃を1万円アップしました。にもかかわらず、入居希望者が順番待ちという状況が続いています。
なぜそれが可能なのか?
それは、日本のマンションの99%がマトリョーシカ構造になっておらず、「音と振動から解放された健康で文化的な暮らし」を実現できる物件が、ほとんど存在しないからです。
タワーマンションでも、億ションでも、構造が未対応であれば、安心して暮らせる環境とは言えません。
だからこそ、マトリョーシカ構造によって根本的な解決を施した物件には、抜群の希少価値が生まれるのです。
そのうえで改めて、長期的に利益を生むマンション設計の3原則をまとめます:
- 新築時にしかできない構造的差別化(マトリョーシカ構造、防音・防振)
- 入居者が「本当に困っていること」を解決(音と振動のストレス)
- 結果として高い満足度と家賃アップが実現(満室経営、資産価値向上)
設計のご相談について
私は一級建築士として、音や振動の課題に真正面から向き合い、オーナー様の資産価値を最大限に高める設計をご提案しています。
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そんな方は、ぜひ一度お問い合わせください。防音・防振に特化した設計が、あなたの物件を“唯一無二の資産”に変えます。
不動産オーナーの皆さまにとって、少しでもお役に立てば幸いです。
Mac建築デザイン研究所 一級建築士 安田
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